恵比寿・喜久屋酒店
ある日地下鉄の日比谷線に乗っていましたら、恵比寿の近辺で猛烈にお腹が空いてきました。私は普段はあんまり食べませんが、こういう時には湯気の立った美味しそうなラーメンが思い浮かんできます。恵比寿といいますと、知る人ぞ知るラーメン店の激戦区ですね。思い立ったが吉日!早速、恵比寿駅で途中下車してみます。でも、恵比寿駅の周辺を見渡してもそれらしきラーメン店は見当たりません。西口広場の近くにはところどころにラーメン店を見かけるものの、一見して『ラーメン通り』と思えそうなところはありません。それなら。。。と、何時もは利用しない東口の方に出てみます。駅の直ぐ脇を通る駒沢通りを歩いていきます。ところどころに新しい建物が見られますが、全体的には昔ながらの街並みが続きます。コンクリートで固められた如何にも都心の河川とでもいうような風情の渋谷川を渡りますと広い明治通りに出ます。でも、どこにもラーメン屋さんは見付かりませんねぇ。。。
今度は明治通りに沿って広尾の方向に歩いてみます。小さなスナックとかレストランがポツンポツンとある程度で、ラーメンのラの字も見かけません。7−8分歩いた頃、ついに諦めて戻ることにしました。今度は明治通りでなく、裏通りを歩くことにします。こっちの方角だよな。。。と思いながらぶらぶらと歩いていましたら、ちょっと広い道に出ました。あれっ?どうも先ほど来た駒沢通りと様子が違います。駅はどっちだったかなぁ。。。と周囲を見渡していましたら、古ぼけた小さな酒屋さんが目に入りました。間口1間どころか、入口の広さは大人一人通るのがやっとというほどの狭さです。でも、この酒屋さんはちょっと変わっていますねぇ。。。表に並べられた木箱には、結構な数のワインのボトルが詰め込まれています。しかも、その全てのボトルに、値札と共にテイスティング・ノートが括り付けられているのです。値札には何回も値下げした後が読み取れますし、テイスティング・ノートに書かれているコメントも本格的でなかなかのものです。誰がこのコメントを書いたのだろう。。。と、お店の中を覗き込みますと、入口の横に小さなレジがあり、小柄なおばあさんが見えます。まさか、あのあばあさんが。。。と思いつつも、お店に入ってお伺いしてみました。
『あのぉ、ワインのコメントは誰が書かれたのですか?』。『私ですぅ。でも、私は字が下手なので主人に書いてもらっています』。確かに、コメントを清書されたのはご主人のようですが(清書と云うほどは。。。ねぇ。。。)、テイスティングはおばあさんの役目のようです。普通ならご主人がテイスティングして奥様がその内容を清書するのが普通でしょうけど、ここでは逆の立場のようです。ま、それはともかくとして、お店のおばあさんはなかなかお勧め上手のようです。つい、あれもこれもと4本も買い込んでしまいました。持ち帰るにはちょっと重たいですが、もうルンルン気分です。久しぶりに面白い酒屋さんに出会えて、ラーメンを食べることはすっかり忘れてしまいました。。。
私のお勧めのワインは次の通りです(説明文はラベルから転記しました)。
- (白) 山形: [季節限定]月山山麓しぼりたて濁りワイン とらやの『ほいりげ』
- 『HEURIGE(ホイリゲ)』は、低温で発酵させ、冷却して酒石酸を沈殿させ、上澄みをそのままボトリングしました。本来、再発酵の恐れがあるため、ワイナリーでしか飲めない特別のワインです。お取り扱いを誤りますと栓が飛んで吹きこぼれます。お買い求め酒店様より商品特性をお聞きになり、お早めにお飲み下さい。
[ご注意]『ほいりげ』は全くの生で酵母が生きており、エキス分があるので保管温度が高いと再発酵します。横にしないで5℃以下で保存して下さい。また、強い振動や衝撃を与えないで下さい。
[要冷蔵]全くの生で、少々炭酸ガスを含んでいます。必ず冷蔵の上、お早めにお飲み下さい。開栓時は、吹きこぼれないよう布等を当ててガスを抜いて下さい。
お店の前に並べられたディスカウントのワインを眺めながら買おうかどうしようかと迷っていましたら、若いカップルがお店の中に入ってきました。『おばさん、生ワインあるぅ?』。おばあさんは『未だ残っているよぉ!』と、入口横の小さな冷蔵ケースを指差します。するとカップルのお兄さんは冷蔵ケースからボトルを2本取り出してレジに置きます。『これ美味しいんだよねぇ』と嬉しそうです。生ワインって何でしょうね?3本ほど安いワインを買い込んだ後で、おばあさんに訊いてみます。『あのぉ、生ワインってどんなのですかぁ?』。『それはねぇ。。。』とおばあさんはとくとくと説明します。何でも、保存のための食品添加物を一切使っていないそうで、恐らく日本国内では店頭に並べてあるワインとしては唯一のものだそうです。そのため冬の季節しかお店に出せず、しかも酵母が生きているために少しでも温度が上がると再発酵を始めてワインそのものがダメになるのだとか。。。その上、ワインには炭酸が封じ込められていますので、輸送時の振動が大敵で醸造元の虎屋さんでも何回となく失敗を繰り返してようやく完成に漕ぎ着けたのだとか。。。そこまで言われればもう買うしかありませんね。ちょっとお高いですけど。。。
あんまり日持ちがしないとのことでしたので、買った翌日に飲んでみました。シャンパンのように針金で厳重に栓を縛り付けてはありませんが、ボトル全体は割れても破片が散らないようにラップされています。一応用心のためにシンクの上で恐る恐る栓を抜きます。シュポッ。。。吹きこぼれませんね、大丈夫のようです。香りは殆ど感じません。グラスに注ぎますと、上部に真っ白い泡が溜まり、スーーーッと消えていきます。でもシャンパンのように、何時までもグラスの底から気泡が立ち昇るということではありません。早速味わってみます。何か生の冷酒を飲んでいるみたいですねぇ。。。でも日本酒とは違って、フレッシュジュースのように果実の新鮮な酸味が感じられます。夏なんかには爽やかでいいかもしれませんが、赤を飲みなれた方にはちょっとどうでしょうか?それと、どうでもいいですけど『ホイリゲ』って、どういう意味なんでしょうね?
- (赤) フランス: FIXIN BOUCHARD AINE FRANCE (1996)
- 『フィクサン』は、コート・ド・ニュイ地区のフィクサン村の産で、鮮やかな色合いと果実味溢れる爽やかな口当たりのワインです。
このワインは、もともと3千円のお値段だったのが値下げされて千円になっていました。そろそろ熟成が終わるので問屋さんが安く卸して下さったのだとか。。。それなら最初から千円の値札になるのでは。。。なんてことはどうでもいいです。3千円のワインだと思って心して飲むことにしましょう。
飲んだ瞬間にある種の酸味を感じます。ふーーーむ、この酸味や如何に?これは紛れもなくブルゴーニュ産のワインですね。フランスには有名なワインの産地が幾つもありますが、この独特の酸味はブルゴーニュをおいて他にありません。安い赤ワインには世界共通の酸味がありますが、ブルゴーニュの酸味は少し違います。ちょっと薄めながら、繊細で上品な感じがするのです。男っぽい濃い味が好きな方は男女を問わずボルドーの赤にはまりますが、女性のワイン愛好家(かなり通のレベルまで達した方)は大体がブルゴーニュの赤(特にピノ・ノワール種の赤)を好まれるようです。だからといって、無理してブルゴーニュに切り替えることもありませんが。。。
- (赤) イタリア: FONTANA CANDIDA MERLOT (1999)
- フォンタナ・カンディダ社の『メルロー・デル・ラツィオ』という名前の赤ワインです。次のような解説があります。
Crafted from 100% Merlot grapes grown in central Italy's Latium region, our Merlot is enhanced by oak-aged blending. This Merlot is deep ruby-red in color, fruity, with a dry, full and soft taste of cherry, plum, blackberry and raspberry. A natural accompaniment to game, roasts, grilled meats, poultry and pasta. serve at room temperature.
イタリアのワインでメルロー種の葡萄を使うというのは珍しいですね。最初に見たときはアルゼンチンのワインかと思いました。スマートなボトルに封じ込まれたメルローのコク。。。これは楽しみです。
この芳醇にして素晴らしいコク。。。メルローの美味しさを最大限に引き出した最高のワインですね!これを飲んでイタリアの赤を見直しました。イタリアの赤は軽くてフルーティなだけかと思っていたのは、単に私の偏見だったようです。キャンティだけがイタリアの赤ワインではありません。産地によっては、こんなにも重厚でコクのあるワインを生み出すのかと思いますと、イタリアワインの奥深さが分かってきたような気がします。
- (赤) イタリア: MICHELANGELO
- イタリアが生んだ偉大な芸術家ミケランジェロの名を冠したこの赤ワインは、キャンティー生産の中心地であるCertaldo村で生まれました。ここはイタリアの作曲家ボッカチオが名作『デカメロン(デカいメロンという意味ではありませんぞ。。。)』を執筆した村でもあります。美しいルビー色、香り高いブーケと葡萄本来の香りを合わせ持っています。ラザニアなどの肉料理とか、リゾットやチーズにも良く合います。ミディアムボディで、飲み頃は18℃〜20℃です。
交通信号で云えば、黄色は注意を意味します。そのせいか、このワインはラベルが大きいということもあって結構目を引く存在でした。その上、モデルになっているのがミケランジェロとあれば。。。そりゃ、もう買うしかありませんね。それにしても、キャンティの故郷で造られたワインであるにもかかわらず、キャンティでないのはこれ如何に?ミケランジェロはかく語りき、『。。。。。。』(←うまいダジャレが思いつかなかった。。。)
葡萄の品種は何か分かりませんが、イタリアのワインにしては香りも色も結構濃いですね。キャンティほど洗練されていませんが、素晴らしく豊かなコクがあります。ちょっと冷やした方がより美味しく飲めるかもしれません。できれば、栓を抜いてから暫くそのままにした後で口をラップで封じ、冷蔵庫に1晩置いてから飲まれることをお勧めします。空気に触れることによって、信じられない位に美味しくなります。
ちょっとひ弱なおじさんという感じで、あの力強いダビデ像などを作った偉大な彫刻家のイメージとは随分違いますねぇ。。。
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