イモラ・F1の貴公子セナを訪ねて



ボローニャで乗り換えたイモラ行きの列車は更に悲惨でした。一等車にもかかわらず、冷房設備がないのです。午後の日差しは極度に強く、カーテンを下ろしても車内には熱気がこもっています。暑さに慣れている筈の乗客もさすがに耐え難いのか、殆どの窓を開け放って少しでも風を入れようとしています。少しならいいのですけど。。。列車は気が狂ったように鉄路を驀進し、窓からは突風のような風が吹き込んできます。それも爽やかな冷風ならまだしも、熱風のような風です。カーテンは風に煽られて天井に張り付き、日差しを遮る術を失った車内は熱風が吹き荒れて暑いのなんの。。。追い討ちを掛けるように、列車がすれ違う際は轟音が容赦なく耳に轟きます。早くーーーう、イモラに着いてよーーーぉ。。。



やれやれ、やっとイモラの駅に着きました。ホームも駅舎も閑散としています。イモラは思っていた以上に小さな町のようです。外に出ますと、駅前には小さな広場があって、夏の日差しを一杯に浴びた草花が鮮やかな色彩で旅人を歓迎してくれます。こんな小さな町に旅人が?いえいえ、イモラではサンマリノ・グランプリが開催され、毎年多くのF1ファンがイモラ・サーキットに詣でるためにここイモラを訪れるのです。F1グランプリなら年に17回も開催されますので、何もイモラくんだりまで行かなくても鈴鹿で観ればいいじゃんと思われるかもしれませんが、イモラは特別な場所です。そう、F1の貴公子と言われたアイルトン・セナ殉教の地なのです。



駅からサーキットまでの道順と所要時間は事前にインターネットで調べてあります。何でも駅から真っ直ぐに伸びた道をひたすら歩き、川の手前で右に折れるのだとか。。。川を通り越して右に折れるのならまだしも、川の手前で曲がれと言われてもどこに川があるのか分からなければ曲がりようもありません。初めての人には困った道案内ですが、ともかく通りを真っ直ぐに歩くことにします。広場の片隅にはバスが停まっていますが、歩いて20分位ならバスに乗るよりも早いかもしれません。ところで、駅前の通りといいますと車と人の喧騒を想像されるのかもしれませんが、真夏の午後ということもあってか、通りには車も人も疎らです。木陰を選びながらずんずん歩いて行きますと、町の中心らしき場所を抜けた先は住宅地になっています。こんな閑静な場所にサーキットなんてあるのかしら。。。と、ちょっと心配になってきます。更に歩きますと、住宅地を抜けたところに広場があり道が二つに分かれています。どうやらここで右側の道に入るようです。暑さで頭がクラクラしますが、露店で冷たい水を買い、グッと飲みますと多少元気が回復してきます。緑濃い歩道を暫く歩いて行きますと、急に視界が開けます。目の前に橋が見えますので、ここがサーキットの入り口なのでしょう。



橋の手前から見ますと、イモラ・サーキットは森林公園のような感じです。その上、細いゆったりした流れの川が堀のような役目を果たして、あたかも住宅地とは隔絶された感があります。橋を渡ったところに高い建物があり、ここにコントロール・ルームがあるようです。どこから入るのかなぁ。。。と思ってゲートのところに行きましたら、『売店はお昼休み』との掲示がしてあって門が閉じられています。あちょーーー。。。仕方なく、サーキットに沿って歩いていましたら、公園の入り口のようなところに辿りつきました。どうやら、観客席の裏手のようです。得意の裏口入門で観客席の中に入ってみます。



観客席に上がってみますと、目の前にはスターティング・グリッドの白い線が引かれています。レースの最中だったら特等席なのでしょうけど、今は練習走行の市販車が時折走っているだけです。ということは、スペインのヘレス・サーキットのようにコースの中には入ることは出来ません。あまりゆっくりしてられませんので、セナ殉教のコーナーに行ってみることにします。



セナが激突したのはタンブレロコーナーといって、スタート地点からはかなり離れた場所にあります。時速300kmで走るF1カーなら10秒あまりで到達するところですが、歩くと結構な距離があります。サーキットに沿って、公園のように緑豊かな芝生の中の歩道を歩いていきます。念のためにボール遊びをしていた親子連れに道順を訊いてみますと、『あー行って、こう行けばいいんだよ』とのこと。砂利道で歩きにくいのですが、木々の間を抜けて進んでいきます。結構歩いた頃、コースを隔てる高いフェンスのあちこちにいろんな言語で書かれた紙が貼り付けてある場所に着きました。その手前には花とか記念の品が供えられています。ここがタンブレロコーナーのようです。



歩道とフェンスの間には低い植樹があって、余程のファンでなければ乗り越えられません。それに、タンブレロコーナーはセナの事故の後に改修されて現在ではどこがどこなのかよく分かりません。今度は100mほど歩いたところにあるセナの慰霊碑に詣でます。小さな広場の中心にセナの銅像が建てられています。ここにも真新しい花束が供えられています。セナは永遠にF1の貴公子なのでしょう。それにしても、セナの顔は何と言う悲しい表情をしているのでしょうか?うつむいて何かを思いふけっているような感じです。緑に囲まれたサーキットの中で、この空間だけが唯一時間が止まっているようです。まあ、でもセナに会えて良かったです。暑い日差しの中、何となく重苦しい思いをしながらもと来た小道を引き返します。



サーキットの入り口まで戻ってみますと、長い昼休みを終えたF1グッズの売店がオープンしています。お友達に何かお土産の品を買っていきましょう。フェラーリ博物館で結構お買い物をしたのであまり食指は動きませんが、無難なところでマウスパッドを2組買い込みます。金額は大したことはなかったのですが、また歩いて駅まで帰るのも何だし、ついでに売店のお姉さんにタクシーを呼んでもらうことにします。お客さんの相手もしないといけないのに、お姉さんは快く電話をとりタクシー会社に連絡してくれます。そんならもうちょっと高いのを買うんだった。。。と多少申し訳ない気もします。首尾よくタクシーが呼べたとみえて、入り口のところで待つように言われます。ヤレヤレです。暫くしてタクシーがやってきます。綺麗なタクシーですねと思うまもなく、あっという間に駅に着いてしまいました。



さあて、早くボローニャに戻らないと。。。と駅のホームに向かった途端、目の前を列車が動き出しています。あれれ、あれはどっちに向かっているんだろうとホームに入りますと、何とボローニャ行きの普通列車が遠ざかっていますぅ。。。山手線なら目の前でドアが閉まっても3分後には次の列車が来ますので何ということもないのですが、ここはイモラです。列車の時刻表を見ましたら、次のボローニャ行きの列車は40分も後の発車です。あーーーあ、あと3分早く着いたら。。。と後悔の念しきりですが、ここは待つしかありません。立って待つか、座って待つか、寝て待つか。。。いやいやビールを飲んで待つことに致しましょうぞ。。。



美食の国イタリアとはいっても、イモラ駅の中にある待合室兼売店兼パブといった感じのお店では多くは望めません。ビールこそ冷えて美味しいのですが、おつまみはレンジで暖めたようなピザの切れ端でイマイチの味です。まあ、今夜は(今夜も)パルマで豪食・豪飲しようと、ここは軽く済ませます。でもビールを1杯飲んでもまだまだ時間があります。しょうがない、2杯目もいくか。。。



やっと到着したボローニャ行きの列車に乗り込みます。幸いなことに今度は冷房がついています。これからボローニャに寄ってホテルで荷物を受け取って更にパルマに行かなければなりません。今夜はどこでディナーを頂こうかしら。。。と楽しい空想に耽っていましたら、車内検札の車掌さんがやってきました。ダイジョーブ、私にはパスがあるもんね。。。『ハイ、どーーーぞ』とパスを差し出しますと、車掌さんはシゲシゲとパスを眺めてから私に何か言っています。何かマズイことしたかな?と思って差し出されたパスを見ますと、車掌さんが『コレコレ』と指さしています。言葉は分かりませんが、よくよくパスを見ますとパスポート番号とかが書いてある箇所が空欄になっています。このパスは4日間有効ですので、私は自分の乗車日だけ書き込めばいいと思っていたのですが、どうやらパスを使う前に駅に行って確認の印を押してもらい、パスポートの番号も書き込まないといけなかったようです。イタリアの国鉄では検札は必ずあるとは限りませんが、不正乗車が見つかると高い罰金が科せられます。ディナーの空想はどこかに消し飛んでしまい、必死で言い訳します。車掌さんも長居は面倒と思われたのか、『駅に行って手続きするように』と言って無罪放免してくれました。ヤレヤレと思っているうちに、今日3度目のボローニャ駅に着きました。。。







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